きらきらと備忘録

感想メモとひとりごと

部屋とわたしと引っ越しと

「引っ越しをすると、嫌でもいろんなことが片付くからね」

引越し(ひっこし、引っ越し)は、人が生活する場所や活動する場所を他の場所へ移すこと、またその作業のことである。住居、あるいは企業・団体の事業所などの移動がこれにあたる。古くは宿替、転宅ともいう。

(引越し - Wikipedia)

冒頭の言葉は『恋するマドリ』(2007年公開)にて、アツコ(菊地凛子)が口にする台詞である。ふいにこの言葉が頭をよぎったのは、今“いろんなこと”を片付けたいと思っているからだろうか。

 

 


映画 恋するマドリ (2007)について 映画データベース - allcinema

恋するマドリ』は、主人公・ユイ(新垣結衣)の引っ越しから始まる。ユイの元の家に越してきたアツコとの出会い、そして引っ越し先のマンションの上の階の住人・タカシ(松田龍平)との関係を描いた作品だ。最終的にユイはまた次の場所へと引っ越しをして、新たな一歩を踏み出すことになる。

どういう経緯でこの映画を観たのか、誰と一緒だったのか。映画を観たときの詳細はすっかり忘れてしまったが、作中のアツコさんの台詞はやけにくっきりと印象に残っている。当時の私は実家暮らしの学生で、多少の憂鬱やつまづきはありながらもそれなりに楽しく生活をしていた気がする。あれから10年以上が経って、今は社会人の端くれとして働いている。距離としては大したことはないのだが実家を離れ、初めての一人暮らしをしている最中だ。自分の意思で部屋を決めて引っ越しをして、それなりに生活を送っている。全くしてこなかった自炊もそれなりに出来ている(と思っている)し、体調も多少の波はあるがおおむね健康だ。諸々を総合してみると満足といえる生活を送ることができていると思う。

 

実家から引っ越すときにかなりのものを片付けた。服も本も雑貨も文字通り山のようにあって、その中にはなぜとっておいたのか分からないものもたくさんあった。いかに自分が物にまみれた空間にいたかを知った。そして本当に少しずつではあったが、片付いていく部屋を見るのはちょっと楽しかった。そこからいわゆる“捨て魔”やミニマリストになる……ことは残念ながらなかったのだが、なんとなく「むやみに物を増やさないようにしよう」という意識は生まれた。物の選別もその処分もとてつもなく手間がかかり面倒だったからだ。私はめんどくさがりなので、次に引っ越しをするときに同じような思いをするのは嫌だと思ったのである。

片付けは確かにとてつもなく手間だった。でも同時に薄皮が剥けるような気持ちにもなった。ありきたりだが「過去の自分」にひとつの区切りをつけて進歩したような気もした。大量にしまいこまれていた物にはそれぞれ「あのときの自分」や「このときの自分」がこびりついていて、手に取ると思い出すことも多かった。良いことも悪いことも錆びた脳内フォルダの奥からぎしぎし引っ張り出されてきた。「あぁそうだった」とか「しんどかったわ~」とか「楽しかったな」とか思いながら選別をした。不思議だった。物理的にも精神的にも完全に生まれ変わることなどないのに、なんでそう感じるのだろうと思った。

結局は自分で決めることこそが大事なのかもしれない。住む場所も、使うものも、使わないものも。物を捨てても記憶を捨てることにはならない。いなかったことにはならない。思い出しにくくなるだけ、脳内フォルダを開けるきっかけが少し減るだけ。

生活の中で覚えることや残しておかなければいけない情報はたくさんある。脳内フォルダも容量が無限にあるわけではないから整理は必要だ。引っ越しはその手助けをする。物と一緒に過去も整理をする作業なのだ。整理して、スペースを作る。そこに新しいものを入れられるようにする。本当は転居なんて大がかりなことをしなくても、日頃からそれができれば一番楽なのかなとも思う。でも私はめんどくさがりなので、そういうタイミングでもなければなかなか出来ないのが現実である。

 

今の部屋は2年契約なので、急いで次の住まいを探す必要はない。契約更新して住み続けることももちろんあり得るし、もしかしたら気が変わって更新のタイミングで別のところに移るかもしれないし、(現段階で可能性としてはゼロに限りなく近いが)パートナーと新たな暮らしを始めるかもしれない。今と180度趣味嗜好が変わったりして、家具も家電も何もかもを全取っ替えすることになっていたらどうしよう。絶対に面倒だ。そうはなっていないといいな。

何年後かにきっとまた引っ越しに伴った片付けをするのだろうと思う。あるいはどこかで断捨離に目覚めるかもしれない。そのときに今より物が増えていても増えていなくても、きっと「あのときの自分」や「このときの自分」がいっぱい出てくる気がする。そして今と同じように、アツコさんは私の頭の中で言うのだ。

「引っ越しをすると、嫌でもいろんなことが片付くからね」